安否確認システムを提供する事業者としては後発のトヨクモ株式会社と(以下、トヨクモ社)、先行してサービスをリリースし東日本大震災を経験した、大手警備会社S。
当時、圧倒的なシェアを有していた大手警備会社Sのシステムを参考にせずにシステムを構築し、急速にシェアを拡大してきたトヨクモ社の安否確認システムとはどのようなものか。
これまでの大規模災害時のデータを用いながら紹介していきます。
【目次】
2010年に、サイボウズスタートアップス株式会社として設立され、2011年に安否確認サービスをリリース。
その後MBOを実施し、2019年にトヨクモ株式会社へ社名変更、2020年に東証マザーズ(※現 東証グロース市場)へ上場しました。
現在、安否確認サービスのほか、サイボウズ社のkintoneに連携するサービスを複数提供しています。
トヨクモ社のサービスはすべて、毎月定額の料金で利用する、サブスクリプション型です。解約率が非常に低く、毎月契約件数が積み上がっていくビジネスモデルです。
契約社数 | 要した期間 |
---|---|
1~1,000契約まで | 5年10ヶ月 |
1,001~3,000契約まで | 2年6ヶ月 |
3,001~5,000契約まで | 1年4ヶ月 |
5,001~7,500契約まで | 1年2ヶ月 |
7,501~10,000契約まで | 1年 |
この中でも安否確認サービスの契約が大半を占めており、2022年9月時点で、3,000社以上、160万ユーザーのお客様に利用されています。
その為トヨクモ社では、主力製品である安否確認サービス2のシステムを、隔週1、2回バーションアップしています。
2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 |
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72回 | 61回 | 50回 | 56回 | 32回 |
そこで、トヨクモ社では、真にユーザーが使いやすく、未曾有の大災害でも稼働する安否確認システムを、開発することとなりました。
まず一番に考えなければいけないのが、システムを構築する基盤、つまりサーバーでした。
大手警備会社Sでは、自社(国内)でサーバーを構築・管理しているようですが、トヨクモ社では、下記の観点からクラウドサーバーを採用しました。
安否確認システムは、日常的にアクセスするシステムではない反面、災害時は特定の地域の全てのユーザーがアクセスする可能性があります。
自社サーバーの場合、常に最大のアクセス数を考慮して、サーバーを構築・運用する必要があります。
また、サーバーの増設は容易ではないので、場合によっては数年先の顧客増加数も考慮して、余分に構築する必要があります。
サービス提供会社のコストが増えると、結果的にサービスの価格も高くせざるをえなくなります。
その点、クラウドサーバーを選択しているトヨクモ社では、平時に不要なコストがかからず、低価格でサービスの提供ができています。
利用人数 | 大手警備会社S | トヨクモ社 | 初年度費用の差額 |
---|---|---|---|
100ユーザー | 584,240円 (内、初期費用200,000円) | 145,920円 (初期費用無料) | ▲438,320円 |
300ユーザー | 632,240円 (内、初期費用200,000円) | 214,320円 (初期費用無料) | ▲417,920円 |
500ユーザー | 680,240円 (内、初期費用200,000円) | 271,320円 (初期費用無料) | ▲408,920円 |
オプション費用 | 管理者追加などで発生 | 一切なし | − |
どれだけ万全を期したと思っていても、相手は自然災害です。
想像を超える規模の災害が発生する可能性は十分あり、そういった時こそ安否確認システムは稼働し続ける必要があります。
自社サーバーの場合、許容量を超えるアクセスが集中した場合、おさまるまで待つしかない、という事態に陥ります。
一方、クラウドサーバーの場合は拡張が容易で、トヨクモ社の安否確認システムでは、地震を検知した段階で拡張してアクセス集中に備え、その後も激増するアクセスに応じて、サーバーを自動で拡張します。
定期的に、関東で震度7の地震が発生したことを想定した、負荷試験を行なっています。
2018年度の一斉訓練では、全契約者の6割以上が参加し、システムが問題なく稼働することを確認しました。
又、内部での負荷試験でも下記の結果が出ています。
発生想定地域 | 東京、千葉、埼玉、神奈川全域 |
---|---|
地震の規模 | 震度7 |
処理に5秒以上かかったアクセス | なし |
この負荷試験では、現状のシステム構成のままで約5倍の負荷がかかっても稼働するという結果がでました。
災害は、日本全国どこで発生するか分かりません。
東京と大阪のように、国内で複数バックアップ体制を構築していても、確実に安全とは言えません。
クラウドサーバーの場合、国内のデータセンターはもちろん、高いセキュリティ基準はそのままに、海外のデータセンターを選択することができます。
トヨクモ社では、日本・アメリカ・シンガポールのデータセンターを選択することで国際分散させ、日本国内での災害に強いシステムになっています。
トヨクモ社では、世界No,1のシェアを誇るAWS(アマゾン ウェブ サービス)のクラウドサーバー上に、システムを構築しています。
AWS は、2,800を超える要件について、1 年を通じて外部の監査機関による監査を受けており、国内に自社サーバーを設置するのと何ら変わりない、世界基準の高いセキュリティ対策を実施しています。
SOCとは…セキュリティ、機密保持、プライバシーに関連する内部統制を対象として保証を受けた報告書です。
下記は、大手警備会社Sのホームページにて公開されている情報です。
回答方法 | ウェブ | メール | 電話 |
---|---|---|---|
割合 | 90% | 10% | 0.1%(2件) |
回答方法 | ウェブ | メール | 電話 |
---|---|---|---|
割合 | 96% | 13% | 0.4% |
災害時は電話が繋がりにくくなる為、ウェブでの回答が多くなります。
東日本大震災時も、ツイッター上では連絡が取り合えたと話題になり、LINEが開発されるキッカケともなりました。
そのためトヨクモ社では、メールやアプリからログイン情報不要で、簡単に回答できる方式に特化しています。
ドコモ社では「特定接続」という、一般の接続口とは別の接続口を通してメール配信を行えるサービスを提供しています。
ただしこれは、ドコモ社のメールサーバーに届けるまでの経路が別というだけであって、特定接続の契約数を超える配信が行われるような、想定以上の災害が発生した場合、メールの配信が遅くなるという性質があります。
その上、ドコモ社のサーバーに届けるまでの経路が異なるだけですので、そこから先のメールサーバーから携帯端末に届けるまでの経路は、一般の経路となんら変わりません。
その為、特定接続を利用することによって「迷惑メール設定を回避できる」「メールが確実に受信できる」といった事実はありません。
各キャリアは、⾃社携帯網への専⽤線もしくは、VPN接続サービスを提供していますが、これらのサービスは、会社で配布した携帯電話だけで利⽤できるようにするなど、セキュリティを向上させる⽬的で利⽤するサービスです。
そのため、このような契約は「災害時でも利用できるするための対策」とはいえません。
そもそも、東日本大震災時もパケット通信の規制はほとんどなく、東日本大震災以降も、より広い範囲をカバーできる【基地局の大ゾーン化】や、災害時の無料ワイファイ【00000JAPAN(ファイブゼロジャパン)】などの対策が進んでおり、パケット通信が規制される可能性は非常に低くなっています。
もちろん、基地局が壊滅的な打撃を受け、電波が停波してしまった場合はインターネット通信が行えなくなりますが、この場合は公益性の高い国の機関であっても同様に利用できなくなり、そういった事態に陥った場合は、各キャリアが立ち上げる災害用伝言掲示板すら利用できなくなります。
企業での安否確認では、個人間の安否確認とは異なり、その後の情報共有や指示を出す必要があります。
トヨクモ社の安否確認システムでは、掲示板機能による全社での情報共有はもちろんですが、経営層や災害対策メンバー、部署ごとにオンライン会議室を立ち上げる事が可能です。
機能 | 大手警備会社S | トヨクモ社 |
---|---|---|
全利用者対象の 掲示板機能 | ○ | ○ |
特定のメンバー限定の メッセージ機能 | × | ○ |
写真やマニュアルの 添付機能 | × | ○ |
残せる書き込み数 | 最大500件まで | 無制限 |
1投稿で書き込める 文字数 | 300文字 | 2,000文字 |
全てのユーザーが閲覧・書き込みできるオンライン上の掲示板です。
指定したメンバーだけが閲覧・書き込みできるグループ掲示板で、書き込みの通知もできます。
役員や防災担当者だけで議論したい時に便利です。
設問をつけて部署や地域単位、全てのユーザーに手動で一斉送信できます。
自宅待機など、指示を出す際にも活用できます。
大規模災害の場合、サービス提供事業者も被災する可能性は十分あります
そこでトヨクモ社では、大手警備会社Sが採用している有人による誤報判断、送信開始処理ではなく、システムが全て自動で行う仕組みを取り入れ、人的なリスクを最小限にしました。
説明してもらわないと分からない、マニュアルを読み込まないと分からないシステムは、一般ユーザーへの使い方の周知や、管理者が変わった際の習熟が大変です。
トヨクモ社では、触れば"分かる"システムを目指しています。
画像付きの分かりやすいガイドも用意しており、不明な点がある場合は電話やメールで問い合わせれば、安否確認システム専門の担当者が即座に対応します。
電話 | メール |
---|---|
1コールで繋がり、その場ですぐ回答 | 営業時間中に受信したものは1時間以内に返信 |
その為、既存ユーザーの満足度が非常に高く、全契約者を対象に行なった満足度調査では「不満」と回答したユーザーはゼロでした。
上場企業や官公庁、他の安否確認システム提供会社でも利用されています。
本ページは2019年7月1日時点で、トヨクモ社が独自調査した情報を基に作成しています。